「かき氷の概念が変わった」
かき氷を食べた女性は、そう言って店を後にした。

その女性が食べたかき氷は「ピスタチとアングレーズのかき氷」だ。

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ふわふわの氷にアングレーズソース(バニラの効いたカスタード)とピスタチオソース、食感の変化を楽しめるチーズケーキが入り、味の変化のためにラズベリーソースが底に入る。
極め付けはぽってりと乗せられた生クリーム。
目も楽しませてくれるかき氷がそれだ。

石川県で初となる、「冬でもかき氷が食べられるカフェ」を作ったのは2019年の秋だった。

「冬に氷?」
店を始めると話した時には、皆不思議そうな顔をしていた。
冬のアイスクリーム消費量日本一の石川県(2016年/一世帯年間10,480円)だが、冬にかき氷が食べられる店はまだ無い。

冬のスイーツといえば何を思い浮かべるだろうか?

寒い外ならお汁粉や甘酒が美味しい時期である。
暖かい部屋で食べるスイーツ。
北海道ならソフトクリームやパフェ、北陸ではアイスが頭に浮かぶ。

そんな中、密かに盛り上がりをみせているのが、かき氷だ。
お祭りの屋台で食べるのとは異なるかき氷は、もはやスイーツと言って過言ではない。

かんなで削ったようなふわふわの氷。
手作りで作られたシロップに、ミルクソースやチョコソース、あんこやゼリー、中にはチーズケーキが入ったものもある。
上にたくさんのフルーツが乗るもの、クリームやエスプーマで飾られたものは見た目にも美しい。

お店ごとに趣は異なり、シンプルにシロップを楽しむもの、様々な食材で構成され、味の変化や食感の変化のあるもの、メレンゲを焼いてデコレーションする焼き氷、ブランデーに火をつけて提供されるものもある。
発想豊かに作られるかき氷は、ケーキやパフェに近いだろう。

そんな進化を遂げたかき氷だが、なぜ冬に合うのか。
それには3つの理由がある。

まず一つ目は、「気温」である。
店内で暖房がかかっていると言っても、夏に比べて涼しいこの時季は、かき氷をゆっくり堪能するのに適している。
夏だとみるみるうちに溶けていくので、写真を撮っているうちに3分の1は溶けている。
また、氷が溶けることでふわふわだった氷は結合し口当たりも悪くなってしまうのだ。
屋台のかき氷などでも時間が経って液体化してしまったことが1度はあるだろう。
冬だと最後までふわふわの食感を維持できる。

2つ目は、「並び」である。
近年のかき氷ブームを受けて、夏になるとかき氷屋は大盛況だ。
1時間や2時間は当たり前、店によっては3時間以上待つところもある。
かき氷のために、前日の夜から並ぶなど想像できるだろうか。
東京の名店に行くのか、ディズニーランドに行くのか、迷った挙句にかき氷を選ぶ人もいるくらいだから、もはやアトラクションである。
夏は並んでも食べられない人気店も、冬ならそこまで待つことも少ない。
冬なら、1時間と待たずに店内に入ることができる日もある。

そして、最も重要なのが3つ目の「かき氷に時間をかけられる」である。
夏は激務のかき氷屋も、冬になると余裕ができる。
そこで思い思いの「ちょっと変わった」かき氷に挑戦する。
和を感じる甘じょっぱい系の味噌や佃煮、出汁や醤油を使ったものある。
女子におすすめなのは、芋やかぼじゃを使ったコクのある甘みのもの。
モンブランケーキやパンプキンパイがかき氷になったと思ってもらえればわかりやすいかもしれない。
アボガドを使ったものや、カレー氷なんてのも出てくる。
素材を生かした手作りシロップは、パフェなどと同様にその時季にあった旬のものを使うため、冬ならではのメニュー開発となる。
この点も、夏だけのスイーツではないと言える。

また、かき氷のフォルムにも手間をかけることができる。
通常夏のかき氷屋は1日100〜300杯、超人気店では1000杯程度販売する。
そうなるとじっくり作るというのは至難の技だ。
ホールケーキのようなかき氷や、火で炙ったり火を点けたり、造作に凝ることもできる。

この3つの理由から、かき氷好きは冬にかき氷屋を巡る。
そして、自分の顔ほどあるかき氷を2杯、3杯と食べて行く。
かき氷屋が集まるイベントでは、そのサイズのかき氷を一人で6杯も食べるという。

想像してほしい。
休日、かき氷を食べに奈良県へ行く。
そこはかき氷の聖地だ。
早朝から超有名店の時間整理券を取り、その30分後にはもう一店の整理券を取る。
まるでディズニーランドのファストパスだ。
そして、空いた時間でさらにかき氷を食べる。
この時期だと有名なイチゴがメニューにあるだろう。
各店の趣向を凝らしたかき氷に、こんなアプローチの仕方があるのかと舌鼓を打つ。
生クリームにエスプーマ、色とりどりのシロップやソースは写真を撮らずにはいられない。
一つの店舗で一種類では飽き足らず、2つ3つとオーダーしてしまう。
その魅力がかき氷には隠されている。
まさにかき氷沼である。

あなたの街にも1軒くらい「冬でも食べられる」かき氷屋があるのではないだろうか。
天気の良い日は暖かい店内で、進化したかき氷をぜひ食べて見てほしい。
新しい「冬の定番」となるだろう。

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